2009 年 8 月 のアーカイブ

【第1章】予定は未定⑤

2009 年 8 月 31 日 月曜日

「放課後に屋上に来てください」

彼女のさっきの一言のせいで頭の中はほぼパニック状態である。もう授業どころではない。ちょっと待ってくれ、まだ会って5時間ないぐらいだ。フラグ(告白的な意味で)がたつにはあまりに展開が急すぎるし、何がトリガーになったかがまったくわからん。隣に転校生が来た時点でフラグがたつのか?そんなはずはない。そもそも、本当にたっているのはそのフラグなのか、むしろ、教師がヤクザであることを考えるとたっているのは死亡フラグなんじゃないか?この子は良い子そうであるが、実はクラスのスケバン的な何かで、「放課後に屋上にきてくださいね。この学校の法律を体に刻んでやるよ」と解釈するのが正しいのではないか。いやいや、そんなはずは・・・・

考えれば考えるほど、「冷静」と言う言葉から遠ざかる。気がづけば、放課後になっていた。終業のホームルームが終わると彼女は颯爽と教室から消えた。もう考えたところでどうしようもない。どのフラグがたったところで、あの子との約束を敗れるはずもない。約束の場所へ一歩一歩足を進める。そして、屋上に出る扉を開ける。

嘘ように晴れ渡った空はその色を橙色に染め、日と影がはっきりと分かれ、全ての物が止まっているようだった。居れば居るほど感覚が影に蝕まれていくような錯覚に陥った。唯一、9月のすこし肌寒い風だけがこの世界が止まっていないことを教えてくれたことが救いだった。そんな亜空間のような世界の中に三つの影が僕を待っていた。

【第1章】予定は未定④

2009 年 8 月 24 日 月曜日

僕は自分の席に着いた。早速、こちらから話かけようと思った瞬間に向こうから話かけられた。
「田安君、九段さくやです。これからよろしくね。教科書とか持ってる?わからないことがあったら何でも言ってね」
予想を裏切らない。いや、予想以上に良い子である。こっちの顔が綻んでしまう笑顔と聞いているだけで癒される声。こんな幸せな時間を毎日すごせるなんて、なんて幸せなんだろ。僕が高校生活に求めていたものがすべてある。この学校に来て本当に良かった。

彼女ともう少し話しがしたかったので、教科書類はすでに用意していたが、あえて持っていないことにした。そうすればもっと接近する機会が出来る。
「ありがとう。早速で申し訳ないんだけど、教科書が手違いでまだないんだ。放課後にはもらえるから、今日は見せてもらえないかな?」
「はい!どうぞ!机くっつけてたほうが見やすいと思いますよ。ちょっと色々書き込んでいるので汚いと思いますけど、気になさらないでくださいね。」
先生の話も上の空で、彼女を見過ぎないようにしながら、教科書を覗く振りして彼女を見る。もっと正しく言うとずっと見ることが出来ないぐらい僕はドキドキしていた。もう少し近寄りたい、だが、触れてしまえばこちらの心拍が伝わってしまうのではないかと思い距離をとる。触れるか触れないかの距離をずっと保つ。彼女のオーラに包まれ、心が温まる。あっという間に午前の授業が終わり、昼休みになった。

この学校では学食が存在しないため、購買でパンを買うか、自分で弁当を持参するかしかしない。予めコンビニで買った弁当を食べていると、次々にクラスメイトがやってくる。「どこから来たの」、「どこに住んでいるの?」「部活はどこか決めた?」など転校生ならではの当たり障りのない話をした。クラスメイトと話すもの良いのだが、彼女ともっと話をしたかった。しかし、彼女は昼休み中、教室には一度もいなかった。あれほど可愛い子であれば彼氏ぐらいいてもおかしくない。彼氏のところにでもいるのかもしれないな。いや、勝手に妄想し、勝手にテンションを下げるのはやめよう。まだ、数時間の付き合いであるわけだしな。

そうこうしていると、昼休みも終わり午後の授業が始まる時間になったが、彼女はまだ教室にいない。どうしたのかと心配していると慌てて彼女が教室に入ってきた。そして彼女は僕の耳元でささやいた。

「放課後に屋上に来てください」

【第1章】予定は未定③

2009 年 8 月 24 日 月曜日

僕はヤクザに限りなく近い聖職者2名に連れられ教室に着いた。

そう、担任など所詮は担任である。高校生活で最も重要なのはクラスメートである。これさえ外さなければ、リア充な高校生生活はほぼ確定と言っていい。どのようにすれば好意的に見られるか、どのような話しをすれば興味を持ってもらえるかというのは心得ている。しかし、それらは相手が話しがわかる相手であればであり、脳裏には先ほどの失敗(担任がヤクザである件)が過ぎる。ここは過度の期待はしてはいけない。さっきの姉御の話からすれば、彼らもそのスジの人間である可能性は非常に高い。ここはクミであって、組ではないと考えたほうが良いのかもしれない。意を決して、教室に入る。

あ、普通だ。おいおい、取り越し苦労じゃないか。むしろ、可愛い子が多い。特にたぶん僕が座るであろう空席の横にいる子はまさに大和撫子的である。絹のような長い黒髪、陶磁のように透き通った肌、今にも折れてしまいそうに細い四肢。まだ、話はしていないけど、この子はきっと真面目いい子なんだろうと思われるようなオーラをまとっている。

「皆の衆、席に着け!これからわしらの組に入った転入生だ。あれ、築葉のがいないじゃないか。遅刻か。まぁ、いい。田安の、自己紹介をしてもらおうか」
「田安タクミと言います。先月こちらに引っ越したばかりでわからないことばかりなので、色々と教えてもらえるとうれしいです。よろしくお願いします。」
「それじゃ、田安のはそこの九段のの隣の席に座ってくれや」